広島高等裁判所 昭和61年(く)2号 決定 1986年1月17日
少年 W・T(昭42.9.22生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は原審附添人○○○○作成の抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
抗告趣意第一点について。
論旨は要するに、原審は、その審判期日において、少年に対し人定質問をしたのち、罪となるべき事実を朗読してこれに対する少年及び附添人の意見を求め、更に同席した母、伯父、少年の雇主らに対し陳述の機会を与えると共に、附添人に対し右の者らに対する質問の機会を与え、次に裁判所書記官、家庭裁判所調査官を除く全員を退廷させ、約10分後に入廷を命じて審判を再開するや、直ちに少年を中等少年院に送致する旨の決定を言い渡したのであり、附添人としては、本件は試験観察相当との意見を有し、その陳述の準備をしていたにもかかわらず、原審は、右のとおり附添人にその機会を与えなかつたから、少年審判規則30条に定められた附添人の意見陳述権、ひいては弁護権をも侵害したというべく、この点で原審の審判手続には決定に影響を及ぼす法令の違反がある、というのである。
そこで検討するに、記録中の審判調書によれば、原審審判期日における原決定言渡までの審理の経過は、概ね所論のとおりであることが認められる。
ところで、少年事件における附添人の地位の重要性にかんがみると、原審としては、附添人に対し最終に陳述する機会を与える等の措置をとり、十分その意見を聞くことが相当であつたと思料されるけれども、少年審判規則30条は「附添人は、審判の席において、裁判官の許可を得て、意見を述べることができる」旨定めているだけで、刑事訴訟規則211条のように意見陳述の時期や、その機会を与えなければならないとの規定はないことに照らすと、原審が前記のような措置をとらなかつたことが不相当であつたとしても、違法とまではいいがたい。のみならず、前記審判調書によると、附添人は原審審判廷において3回意見を述べており、特に第2回目の陳述は、要約すれば、「少年は今後二輪車に乗らず、母に心配をかけないようにし、○○修理工場でこれからも真面目に働く旨誓つている。」というもので、少年に対する処遇意見を開陳したとも解されないではない。
そうすると、原審の審判手続に所論のような法令違反はなく、論旨は理由がない。
抗告趣意第二点について。
論旨は要するに、原決定の処分は重きにすぎ著しく不当である、というのである。
そこで記録を精査して検討するに、本件は、暴走族「○○連合」の一員である少年が、(一)同グループの自動車運転者多数と道路上で暴走する旨意を通じ合い、自らは自動二輪車を運転し、集団の先頭において出発の合図、右左折の合図等を指揮し、仲間が運転する車両6台と共に、昭和60年10月27日午前1時ごろから同日午前1時37分までの間、原決定説示にかかる約42キロメートルの間において、車両を連ね又は並進して、高速で信号無視・蛇行運転、交互追い越し等の集団暴走行為を繰り返し、その途中、タクシーを運転していたAをして、衝突の危険を避けるため急停止を余儀なくさせてその進行を妨害したほか、もう1名に対しても、それぞれ危険迷惑を与え、もつて共同して著しく道路における交通の危険を生じさせ、かつ著しく他人に迷惑を及ぼす行為をし、(二)自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていない前記車両を、運行の用に供したという事案である。少年は、中学2年生のころからシンナーを吸入するなど問題行動が見られ始め、昭和58年3月中学校を卒業するや、間もなく窃盗、道路交通法違反(無免許運転)の非行に及び、同年6月、右窃盗は審判不開始、道路交通法違反は不処分となつたが、昭和59年夏ごろからは暴走行為をするようになり、昭和60年9月13日には、傷害保護事件により観護措置を経たうえ保護観察に付されたにもかかわらず、その後2か月もたたないのに本件非行に走つたのであり、特に前記(一)は、時速100キロメートル前後の高速で仲間と共に暴走したもので、悲惨な大事故を惹起しかねないまことに危険な行為というほかなく、その際少年がリーダー的存在であつたことも否定できず、しかも、暴走後一部の共犯者に対し、証拠隠滅工作をしていることさえ窺われるのである。このような本件非行の態様、罪質、非行後の情状、少年の非行歴等に加えて、記録上認められるその性格、交友関係、家庭環境等を総合すると、稼働状況等少年にとつて利益な事情を斟酌しても、少年を中等少年院(一般短期)に送致した原決定の処分はやむを得ないところで、これが著しく不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
よつて、少年法33条1項後段、少年審判規則50条に則り本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 久安弘一 裁判官 横山武男 谷岡武教)
抗告申立書<省略>
〔参照〕原審(広島家 昭60(少)10774号 昭60.12.16決定)
主文
少年を中等少年院(一般短期)に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、
1 いわゆる暴走族「○○連合」の一員であるが、同グループの自動車運転者多数と道路において暴走することの意を通じ合い、自らは自動二輪車(車台番号KZ×××E-××××××)を運転し、集団の先頭において出発の合図、右左折の合図などの指揮を行い、仲間が運転する車両6台とともに昭和60年10月27日午前1時ころから同日午前1時37分までの間、広島市西区○○町×丁目×番××号○○陸運局広島支局駐車場から広島県大竹市○○×丁目×番×号○○食堂前を折り返し、広島県佐伯郡○○町○○×丁目×番○○○前に至る市道、国道2号線約42キロメートルの間において車両を連ね又は並進して高速で信号無視、蛇行運転、交互追い越し、エンジンの空吹かし等の集団暴走行為を繰り返し同日午前1時10分ごろ広島県佐伯郡○○町○○西○○バイパス下り線○○サービスエリア西方150メートル国道2号線において折りから進行中のA(53歳)運転の営業用普通乗用自動車(広島××か××××)に対し衝突の危険を避けるため同人をして急停止することを余儀なくさせ、その進行を妨害したほか1名の者に対してもそれぞれ危険迷惑を与えもって共同して著しく道路における交通の危険を生じさせ、かつ著しく他人に迷惑を及ぼす行為をし、
2 法定の除外事由がないのに、前記日時場所において自動車損害賠償責任保険の契約が締結されていない前記車両を運行の用に供し
たものである。
なお、本件送致事実中、道路運送車両法違反(無登録自動車運行違反)の点については、本件自動二輪車は登録の対象外たる二輪の小型自動車であるので、少年を処分に付しない。
(上記事実に適用すべき法令)
1 道路交通法68条、118条1項3号の2、刑法60条
2 自動車損害賠償保障法5条、87条1号
(中等少年院(一般短期)に送致する事由)
1 本件は、少年において前件の傷害事件で入鑑のうえ本年9月13日保護観察となったばかりであるのに、その僅か1か月半後に惹起した悪質な暴走事犯であって、しかも少年はナンバーも欠落した無保険の自動二輪車を運転するなど少年の規範軽視、法規無視の態度が顕著である。
2 これまで仕事は概ね続いてきている点は積極的に評価できるが、前回の事件の教訓が殆んど生かされていず、極めて安易に本件暴走を行い、しかもコースや逃走に関し指示を行っている点は軽視できず、少年にはこれぐらいならという社会に対する甘えがあると共に反省心、公正心、自律的な判断力に欠けるといわざるを得ない。
3 母親、雇主等も今後の熱心な指導を誓っているところであるが、少年の今回の非行内容、非行歴、生育歴、性格、家庭、交友環境等を総合考慮すると、今回は少年を中等少年院(一般短期勧告)に送致し、これまでの少年の非行行動を内省させると共に、集中的厳格な矯正教育により少年に公正心、規範性、社会常識等涵養の機会を与えるのを相当と認める。
(適条)
少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項